灰色の約束

ゲームってときどき真実を穿つよね

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特許庁「俺が『東方プロジェクト』が何たるかを教えてやんよ」

東方シリーズの神主ZUN氏以外の人物が,「東方プロジェクト」ならびに「上海アリス幻樂団」を商標として登録したことが,話題になっているらしい.

以下、経緯と結果、それに対する解説

東方シリーズは自分も4年くらい前までよく親しんでいたものだ.ゲームをやり,同人誌を読み漁り,アレンジCDを買い漁ってた.

特許電子図書館
http://www.ipdl.inpit.go.jp/Syouhyou/syouhyou.htm

で商標登録を調べてみると,確かに「東方プロジェクト」と「上海アリス幻樂団」の2件とも,ZUN氏と金子氏の2人がそれぞれ登録している(しかもどちらも金子氏の方が出願が早い!).

オリジナルの作者からしたら,赤の他人に自分の制作物の名前を勝手に取られて,好き勝手商売に利用されたら,たまったものではない.うむ.胸くそ悪い話ではある.

で,上の騒動に対する,特許庁へのZUN氏の主張と,それに対する特許庁の判断が出たようだ.

「東方プロジェクト」の文字からなる商標に対する登録異議の申立てについて - 異議の決定 「東方プロジェクト」の文字からなる商標に対する登録異議の申立てについて - 異議の決定

法律というものは,分からして読みづらく,とても理解と解釈に苦しむが,読み解いていってみる.

すごく簡単に述べると,今回のZUN氏の主張はこうだ.

ZUN氏の主張

  • 金子氏による出願の登録第5436765号商標「東方プロジェクト」を取り消してくれ!
  • 「東方プロジェクト」,「東方・・・」といえば,「上海アリス幻樂団」が作っているものだ!
  • 「東方プロジェクト」と言えば「上海アリス幻樂団」が関わり制作した物だということは,世間で広く認知されている(Wikipedia先生もそう言ってる!).
  • 金子氏の商標登録は完全にフリーライドだ!悪質な第三者が権利なく金儲けを使用としている!
  • 以上,商標法第4条第1項第19号に該当するから取り消せ!

商標法第4条第1項第19号
(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十九  他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
商標法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十七号) 「新法」より

それに対する特許庁の出した結論.ZUN氏がフリーライドを主張してるから,出所についてが重要なんだろう.

特許庁の対応

  • 上海アリス幻樂団」の関わるゲームや漫画などにおいては,ちょいちょい「東方プロジェクト」,「東方・・・」て書いてあるものの,それらの出所が「上海アリス幻樂団」であることは判らないよ.
  • だから商品の出所を表示する商標として使用しているものとは認められないよ.
  • 「東方プロジェクト」でググッてもサイトがいっぱい出てきて,「東方プロジェクト」が「上海アリス幻樂団」の制作物であることは判らないよ.
  • 「東方プロジェクト」の名前の付くイベントもいっぱいやってるよね.尚更判らないよ.
  • 提出された証拠じゃあ世間で広く認知されているなんて判らないよ.
  • 「東方プロジェクト」が「上海アリス幻樂団」の業務に関わるものであることが,需要者の間で広く認知されているとは認められないよ.
  • ZUN氏の主張から考えるに,「東方プロジェクト」とはゲーム,音楽,漫画などの作品を総称する語である.だから「東方プロジェクト」の記載が商標としての使用ではないから,ZUN氏の主張は退けるよ.

(4)したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標に該当するものではないから、他の要件に言及するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

(5)結論
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号の規定に違反してされたと認められないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきものである。

こうして金子氏の「東方プロジェクト」の商標登録は,そのまま残ることになった.



特許庁の決定を読んでみると,ZUN氏はコテンパンにやられている.
特許庁に「作者として著名でもないし,商標じゃないことは自分で言っちゃってるじゃんwww明らかにダメだよwww」って言われちゃってる.

確かに特許庁の主張は理路整然としていて,文章よりも簡単に述べることは(自分の頭が足りないところもあるが)難しかった.決定の文章の原文を読めばわかる.
それに比べてZUN氏の主張は,ちょっと苦しいとも感じた.
東方を好んだものとしては悲しい結末ではあるが,この文章を見ると仕方ないと納得が行くものである.

ZUN氏の何が駄目だったのか.

2次創作へのスタンス

2次創作を広く容認するスタンスをとっていたせいで,オリジナルと2次創作との境界があいまいになってしまったのではないか.それを今更,「東方プロジェクトは上海アリス幻樂団の業務に関わるものです( ー`дー´)キリッ」と主張しても,他者から見てそれが判らなくなるほど,東方の同人畑としての土壌が成熟してしまったのではないか.

主張の仕方が下手だった?

ZUN氏の主張の文面は,解り難い.曖昧なまま広まってしまった「東方プロジェクト」について説明することが非常に難しかったことは在るだろうが,「東方プロジェクト」が自身の業務に関わる制作物であることを主張するには,もっとやり方があったように思う.文章構造を整えるだけでも効果があったのではないか?自身の商品のパッケージへの印刷と,全広報を担っていたWEBページに記載されている「東方プロジェクト」を順序立てて説明することで,本来は「東方プロジェクト」が自らの手の内にあったものであったこと.また周囲が同人の区分に「(ZUN氏の)東方プロジェクト」としてカテゴリ分けに用いていたこと等を説明すれば,もっと良い主張ができた気がする.
あと自分で定義を曖昧にさせて,それを説明するのは,尚更解りにくくさせて悪手だろう.結果がこれだ.

特許庁の文章の一部
(3)申立人の主な主張について
 申立人は、「東方プロジェクトの作品を便宜的に『東方シリーズ』と称することもある。」とか「『東方・・』と記載された作品は、『東方プロジェクト』に関連する『東方シリーズ』である。」ことを前提に、「東方プロジェクト」がゲーム等に使用する著名な商標である旨主張するところ、「東方プロジェクト」の文字は、前記したとおり、ゲーム、音楽、漫画等の作品を総称する語であって、個々の作品には、「東方○○」の記載がされ「東方プロジェクト」の文字を商標として使用しているものではないから、係る申立人の主張は採用することはできない。

自分の作品を曖昧なカテゴリのまま取り扱ってきたこと

2次創作を認めるスタンスだったためあまり意識しなかったのであろうが,ZUN氏は明らかに東方シリーズを最初に製作した人物なのだから,もっと権利まわりを整えて身を固めておくべきであったのでは.

ゲームのパッケージに「東方プロジェクト」記述がない

ZUN氏がどのような物を証拠として提出したのかは分からないが,ちょっと前までのゲームまでは,パッケージに「東方プロジェクト」の記述が見られない.
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ちょっと画像が小さいけど,東方永夜抄のパッケージには「東方プロジェクト」の文字は無い.
東方花映塚からは「9th Touhou Project」との記述が入るようになった.以降のゲームにも記述されている.
しかし文字が「東方プロジェクト」ではないし,字も小さくて色も薄く,今回の商標に関わる主張をするには,力が足りなかったのではないか.

こんなことが考えられる.あくまで憶測の域でしかないが.

今回の騒動の教訓

1次制作者が作品を世に出すときは,よくよくチェックしないとダメだね.

今回の騒動での一番重要なこと

何にせよ今回の騒動での一番重要な決定とは,特許庁が下した
ZUN氏の考えからすると「東方プロジェクト」の文字は、ゲーム、音楽、漫画等の作品を総称する語であるということだ.

作者の意図を汲みとっての特許庁が下した解釈であるのだから,法的にはそれで間違いないのだ(笑).